お待ちしておりました!
三寒四温。春らしい日も増えてきましたが、すぐに冬に逆戻り。気温の乱高下がなかなか身体にこたえます。早く本格的な春になってほしいなあと、待ち遠しく思います。
さて今回は、知る人ぞ知る歌曲「北のみなしご」です。まずは私が歌ったものを掲載します。
悲しい歌です。メロディーはさることながら、内容も……。でも、どことなく整った美しさのある作品ですね。
では早速、この歌についての解説をしていきたいと思います。
『白いうた 青いうた』の中の一曲
「北みなしご」は、元々は独唱曲ではなく合唱曲でした。1991(平成3)年から1995(平成7)年にかけて、
- 『十代のための二部合唱曲集「白いうた 青いうた」』(音楽之友社)
※のちに『三世代のための~』に改題
が編まれ、その第1集の第18曲としての登場が「北のみなしご」の初出です。しかし今回私が歌ったものは、1997(平成9)年に作曲者ご本人が独唱用に編み直した、
- 『独唱とピアノのための「白いうた 青いうた」』(音楽之友社)
の第1集の第9曲です。
以下では、上記をまとめて、単に『白いうた 青いうた』と表記します。
先に曲!歌詞は後付け
『白いうた 青いうた』は、一般的な歌曲と異なった特徴を持っています。
歌というのは通常、先に歌詞が作られ(あるいは既存の詩を使って)、そこに後から音・音楽を付けていくという工程で作曲されます。
しかし『白いうた 青いうた』では逆で、先に音・音楽が作られ、そこに歌詞をあてがって作曲が進められました。これを填詞(てんし)といいます。中国古典の韻文形式に由来する言葉です。
本ブログでは、以前『白いうた 青いうた』の中から既に「壁きえた」と「卒業」を解説していますが、それらも填詞により作られています。
歌詞に沿って歌を作ると歌詞のリズムや抑揚に引っ張られますが、先に音楽を作ると、音楽は無の状態から生まれ、より自由な性質となります。『白いうた 青いうた』にはその醍醐味がありましょう。
トー横キッズ
「北のみなしご」を令和の今に歌って、私はある子どもたちを連想しました。
その子どもたちは、東京の歌舞伎町にある新宿東宝ビル周辺の路地に集まる若者たちです。この子たちをトー横キッズと呼んだりします。その呼び方には揶揄的な意味合いも含まれているでしょうが、ここでは便宜上そのように呼ぶことにします。
トー横キッズは、単にトー横に集まる若者たちを意味するのではありません。学校や家庭に居場所がない子たちです。中にはネグレクトにあっている子、家庭の暴力から逃げてきた子、そして親の顔を知らない子もいるようです。
トー横キッズの存在は、重大な社会問題となっています。性暴力、自傷行為、オーバードーズ(医薬品の過剰摂取)、薬物乱用などが横行しています。
孤児(みなしご)とトー横キッズはもちろん厳密には別物ですが、もはや、自分がどういう人物なのか、何のために生きているのか、本当に優しい親なんているのだろうかと、心の奥底では嘆いているのかもしれません。
強制動員が背景にあるも、孤児の歌として完成
トー横キッズの話を出しましたが、もちろんこの歌ができた当時、トー横キッズは話題にすらのぼっていませんでした。
元々この歌のメロディーは、朝鮮半島から日本への強制動員が発端になっているようです。
背景に、朝鮮から日本への強制動員
作曲者の新実徳英さんが著した『うたの不思議 「白いうた青いうた」の秘密』という解説書を参考にすると、「北のみなしご」は、朝鮮の人たちが戦力や労働力として日本に強制動員されたときの出来事が背景にあるようです。
新実さんが、その出来事にまつわる心痛ましいエピソードをNHKのテレビ番組でご覧になり、涙し、「北のみなしご」のメロディーを書き下ろしたのだとか。
中国残留孤児と帰国孤児を描いた歌へ
先述したとおり、「北のみなしご」は、曲ができてから谷川雁さんによって歌詞が付けられました。ただ、歌詞の内容としては、中国残留孤児と日本帰国孤児を描いたものとなりました。
中国残留孤児とは、第二次世界大戦の終戦前後に、中国東北部(旧満州)などに取り残された日本人の子どもたちを指します。ソ連が満州に侵攻してきた際、日本はそこでソ連に敗れました。そのときに混乱をきたし、満州に住んでいた日本人開拓団の家族は引き揚げに失敗し、親と生き別れた子どもたちが現地に取り残され、中国人家庭に引き取られて育つケースが多く生まれました。
一方、日本に戻った子供達もいましたが、戸籍がなく、親とも離別、身元もよく分からないといったような状況に置かれてしまった。そう、まさに、歌詞にある “わたしはだれか おしえてほしい” といった境遇です。
また、歌詞には “すがった指は この島にいる” とありますが、島とは、日本もしくは日本のどこかを指すと捉えるのが自然です。ここまで分かれば、歌詞を読んだときにグッと深い意味が心に沁みてくるのではないか?と思います。

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