お待ちしておりました!
すみません。所用があったため久々の更新です。気づけばすっかり過ごしやすい気候になりました。朝晩は肌寒く感じられることがあります。日中は程良くポカポカ。そして金木犀の香りがあたりに漂う、そんな季節です。
今回は、切なさを感じる童謡「小さな木の実」です。まずは私がひとりで二部合唱をしたものを掲載します。
作曲者がG.ビゼーということもあり、元々はフランス語の歌でした。今回はその点を含め、この歌について解説をしていきたいと思います。
歌詞のあれこれ
日本語歌詞は、海野洋司(うんのひろし)さんが書かれました。彼はテレビ番組にも多く携わっており、「小さな木の実」も、昭和後期等にNHK『みんなのうた』の中で放送された歌の一曲です。
日本語歌詞の誕生
「小さな木の実」の歌詞は、1969(昭和44)年に「草原の秋」として書かれた詩が元になっているようです。「草原の秋」は、海野さんに長男が誕生したときに書いた詩だそうです。
日本語歌詞に込められた思い
2003(平成15)年に著された『小さな木の実ノート』の中で海野さんが子供への思いを述べており、以下が「草原の秋」を書いたときの心境だったそうです。
人はいつかこの世から去る……私も。それがいつになるかは天のみが知ることだが、私がいなくても、しっかりと生きてくれるのだろうか……そんな子になってくれるのだろうか。どうか、たとえひとりぼっちになっても、希望を持って、この素晴らしい世界を強く生きていって欲しい。
私には子供がいません。なのでこの心境を本当の意味で理解することは難しいです。逆に、私はまだまだ親に頼ってばかりです。親がいなくなったとき、そしてひとりぼっちになったとき、私は強く生きていくことができるのでしょうか。私もいい歳ですが、ちょっと自信がありません。
もしそう私が海野さんに伝えたら、彼はなんと答えるでしょうね。すでにお亡くなりになっているので叶いませんけど。
原曲の歌詞
原曲は、G.ビゼーが1866年に作曲したオペラ『美しきパースの娘』の中のセレナード。これを石川皓也さんが編曲して「小さな木の実」が生まれました。
では、その原曲のセレナードの歌詞は、いったいどんなものだったのでしょうか。以下に1番の歌詞のみ示したいと思います。
A la voix
D’un amant fidèle
Ah, réponds, ma belle,
Ainsi qu’autrefois!A ma voix
Daigne encor’ paraître,
Ouvre ta fenêtre
Ainsi qu’autrefois.Ah, parais,
Tu sais si j’admire
Ton charmant sourire,
Tes divins attraits!De tes yeux
Qu’un rayon de flamme
Pénètre mon âme
Et m’ouvre les cieux.
【日本語訳(意訳:弥生歌月)】
忠実な恋人の声に、あぁ答えてくれ、愛しい人よ。かつてのように。
私の声がきこえるなら、どうか窓を開けて、もう一度姿を見せてくれ。かつてのように。
あぁ、出てきてくれ。君は知っているはず。僕が君のすてきな微笑みや神々しい魅力に惹かれていることを。
君の瞳から放たれる炎のような一筋の光が、僕の魂を貫き、私を天国への扉を開いてくれる。
以上のように、「小さな木の実」とはなんの脈絡もない内容です。セレナードですから、夕べに歌う恋のうた。とはいえ、不貞の誤解により婚約者にそっぽを向かれてしまった男の歌です。なんということだ!
原曲の歌詞は2番もあるので、興味がありましたら是非調べてみてください。
“木の実” のお話
「小さな木の実」の目玉となるキーワードは、ずばり “木の実” です。
しかし、この “木の実” って何の木の実でしょうか?
……答えは不明ですが、結実という言葉があるように、それは失敗と努力の先にある結果ともいえます。小さな子どもにとっての大切な成功体験かもしれません。たくましさの象徴と言っても過言ではないと思います。
なお、”木の実” の読みは “このみ” です。”きのみ” と読む場合とはニュアンスが少し異なります。
- きのみ:〈木+の+実〉と分解でき、その字のごとく、木にできる実のこと。やや説明的。
- このみ:指すものは上記と同じだが、分解できず、ひとつの単語。古風な表現。
また、(これは主観ですが)音としても ki-no-mi より ko-no-mi のほうが品があります。iの母音は最も鋭く明るい響きで、oは割と暗めで柔らかい響きです。そのため、i-o-i の並びよりも o-o-i のほうが、語尾のみでエッジがきいて締まりがあります。i-o-i だと、語尾のみならず語頭でもエッジがきいてしまい、ちょっとチープな感じになりがちです。
原曲とのメロディーの違い
先述しましたが、「小さな木の実」は、原曲のメロディーをそのまま流用したわけではなく、石川皓也(いしかわあきら)さんが編み直した音楽となっています。
では、どんな編曲を施したか。
それを知るなら、やはり原曲を聴くのが一番早いと思います。以下の動画の1:05:24のところからが「小さな木の実」の原曲となったセレナーデです。
そして再度、冒頭でもご紹介した、私がひとりで二部合唱をした「小さな木の実」をお聴きください。これで違いをお分かりいただけるかと思います。
あなたはどっちが好きですか?
原曲は、やはり二枚目で声も甘美かつ凛々しいテノールの歌手が歌うと映える歌です(私には到底無理!)。私のような翳りのある声ならば、我ながら「小さな木の実」のほうがしっくりくる気がします。
歌うときのポイント
「小さな木の実」の楽譜をきちんと見たことはありますでしょうか?以下にポイントをまとめましたので、歌われるときの参考になさってみてください。
8分の6拍子 つまり 2拍子
この歌は8分の6拍子です。一小節が八分音符6つ分の容量を持ちます。しかしその6をさらに分けると3+3となります。つまり、前側の3でひとつ、後ろ側の3でひとつの、合計2つのかたまりです。
だから、8分の6拍子は、いわば2拍子なのです。
123 223 | 123 223 | 123 223 …
といった感じで拍子をとります。すると、フレーズが流れやすくなり、もたつきません。また、聴き手からしても乗りやすいです。
mp と mf の対比
歌のメロディーを、頭からケツまでの広い視野で見てみると、mp – mf – mp の構成になっています。この対比を意識すると、歌に抑揚が生まれます。
私の先ほどの動画の歌では、mf のところのみ、遊び心で異質な声を入れています。音量で mf を表現するだけでなく、声質や表情などで表現することも大切です。
そのためにも、楽譜と歌詞をよく読んでから歌う癖をつけること。私がレッスンするときは、生徒にそのことを何度も伝えています。
感傷にふけると沈んでしまう
歌詞の内容は切ないものです。しかし、実は父の願いや子供の未来を映し出している歌なので、辛気臭さは避けたいもの。
感傷にふけって歌いたくなる歌ですが、先ほどお示しした2拍子を意識して、割と淡々と進んでいくように歌うと、必要以上に沈まずに済みます。
むろん、こういった話は主観的なものなので、必ず正解というわけではありませんが、私なりの価値観ですので、ひとつの意見として参考にしていただけたら幸いです。


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