もろびとこぞりて(作曲者・訳詞者共に不詳)

儀礼歌・讃美歌

お待ちしておりました!

あと1日でクリスマス。ということは、今夜はクリスマスイヴです。本当あっという間!まだまだ先だと思っていたら、今年も終わりが見えてくる頃となりました。

ということで、今回は「もろびとこぞりて」について。これもまた超有名なクリスマスソング!

私がソプラノ・アルト・テノール・バス、そしてオルガンを担当した合唱版を載せますので、ぜひご堪能ください。

動画ならではの多重録音です♪ けっこう大変なんですよ。何度も歌わないといけないので。

では、「もろびとこぞりて」について掘り下げていきましょう。有名な割にけっこう謎の多い歌で、読めば読むほど謎が深まっていくことでしょう。

歌詞と音楽の複雑な経緯

「もろびとこぞりて」は、今やキャロルとしてもクリスマスソングとしてもすっかり定着していますが、けっこう複雑な経緯を持っています。

歌詞とメロディーは別個の存在

「もろびとこぞりて」を捉えるとき、歌詞とメロディーに分けて見ていく必要があります。

世界では「Joy to the World」として知られていますが、メロディーそのもののタイトルは「Antioch(アンテオケ)」といいます。アンテオケはアンティオケアとも書いたりしますが、シリアの古代都市のことかと思われます。

歌は通常、歌詞のタイトルをとって曲名が付けられますが、讃美歌にはチューンネーム(歌詞を度外視してメロディーだけに付されたタイトル)が存在していたりします。「Antioch」は「Joy to the World」のチューンネームというわけです。

この仕組みは、讃美歌では歌詞を付け替えて歌うこと(用意のあるメロディーに色々な歌詞を付けて歌うこと)が広く行われてきたために生まれました。歌詞とメロディーを別個で管理しようというわけですね。

「Joy to the World」と「Antioch」

「Joy to the World」の歌詞は、1719年、讃美歌作家のI.ワッツによって発表されました。現在のメロディーである「Antioch」が作られる前までは、別の様々なメロディーによって歌われていたそうです。

その後100年以上の時を経て、1836年に「Antioch」が編まれ、同時に、歌詞「Joy to the World」と合体した姿がこの世に生まれました。生みの親はL.メイソンといわれています。

ただ、「Antioch」はまったくの新曲ではなく、一説ではG.F.ヘンデルのオラトリオ『Messiah(メサイア)』の合唱曲から取ったのではないかと言われています。たとえば以下の曲です。

【Glory to God】テノールの入りに耳を澄ませて!

【Lift Up Your Heads】冒頭を聴いただけで「もろびと」という印象!

あと、テノールのアコンパニャート「Comfort Ye」とも似ているという話もありますが、私としては似ているようには思いません。だから動画は載せません。

そもそも、上記の合唱曲と似ているという説すら、おそらくこじつけであり、偶然似ただけではという話が今では通説のようです。だから「Antioch」をG.F.ヘンデルの作曲としているものは誤りといえます。

また、L.メイソンの作曲と表記してあったりもしますが、これも正確ではありません。ほぼ彼の作品と見て良いという説もありますが、何かしらをモチーフにして編まれていると考えられているからです。しかもL.メイソン自身、「Antioch」の作曲者をG.F.ヘンデルとしていたようです。

「たみみなよろこべ」と「もろびとこぞりて」

日本での話に移りましょう。話はもっと複雑になります。

1923(大正12)年、「Joy to the World」の日本語訳詞版として「たみみなよろこべ」が『讃美歌』という歌集に掲載されました。チューンネーム(歌詞を度外視してメロディーだけに付されたタイトル)は「Antioch」でした。

また、同歌集には、「Hark the Glad Sound」の日本語訳詞版として「もろびとこぞりて 」も掲載されました。こちらのチューンネームは別のものでしたが、「Antioch」でも歌えるとの説明があったそうです。

……え!?

今では「Joy to the World」の日本語版が「もろびとこぞりて」ということになっていますが、実は「たみみなよろこべ」だったのです。「もろびとこぞりて」は別の歌だったのです!

しかし日本では、「もろびとこぞりて」は「Antioch」でも歌えるんだよ!という付録的な内容の効果のほうこそ大きく、結果的にこちらのほうが勢力を持ち、「たみみなよろこべ」は1931(昭和6)年に消えたそうです。が、1958(昭和33)年に日本福音連盟の『聖歌』に収録されてたみたいですね。

このように、現在の「もろびとこぞりて」として定着するまでに、複雑な経緯を踏んでいたわけです。

「Joy to the World」と「もろびとこぞりて」の歌詞の比較

ここからは歌詞を見ていきましょう。先述のように、歴史を学ぶと「Joy to the World」と「もろびとこぞりて」とは原曲が相違していることが判りますが、現在ではこの両者はセットです。

「Joy to the World」の歌詞

Joy to the world, the Lord is come!
Let earth receive her King;
Let every heart prepare Him room,
And heaven and nature sing,
And heaven and nature sing,

And heaven, and heaven, and nature sing.

Joy to the earth, the Savior reigns!
Let men their songs employ;
While fields and floods, rocks, hills and plains
Repeat the sounding joy,
Repeat the sounding joy,

Repeat, repeat, the sounding joy.

No more let sins and sorrows grow,
Nor thorns infest the ground;
He comes to make His blessings flow
Far as the curse is found,
Far as the curse is found,

Far as, far as, the curse is found.

He rules the world with truth and grace,
And makes the nations prove
The glories of His righteousness,
And wonders of His love,
And wonders of His love,
And wonders, wonders, of His love.
 
【日本語訳(訳:弥生歌月)】
世界に喜びあれ。主は来られた!
この星は王を受け入れよ。
あらゆる心は王に居場所を用意せよ。
天と地は歌う。
天と地は歌う。

天と、そう天と地は歌う。

この星に喜びあれ。救い主が治められる!
皆の者は歌を召せ。
野原や洪水も、岩々も、丘々や平原も、
喜びの声を繰り返せ。
喜びの声を繰り返せ。

喜びの声を、繰り返し、繰り返せ。

もはや罪や悲しみが膨むことはないし、
棘が地面を蝕んでいくこともない。
彼は喜びをもたらすために来るのだ。
呪いがある限り。
呪いがある限り。

呪いがある限り、その限り。

彼は真実と恩恵で世界を統べ、
国々に証させる、
己の義の栄光を。
そして愛の奇跡を。
愛の奇跡を。

愛の奇跡、そう奇跡を。

英語の歌詞をまじまじと読むことはあまりありませんが、いざ見てみると、3番の歌詞の深さには感動を覚えます。

「もろびとこぞりて 」の歌詞

もろびとこぞりて むかえまつれ
ひさしくまちにし 主はきませり

主はきませり 主はきませり

あくまのひとやを うちくだきて
とりこをはなつと 主はきませり

主はきませり 主はきませり

このよのやみじを てらしたもう
たえなるひかりの 主はきませり

主はきませり 主はきませり

しぼめるこころの はなをさかせ
めぐみのつゆおく 主はきませり

主はきませり 主はきませり

へいわの君なる みこをむかえ
すくいの主とぞ ほめたたえよ
ほめたたえよ ほめたたえよ
 

【口語訳(訳:弥生歌月)】

すべての人はこぞって お出迎えせよ
長らく待ち望んだ 主は来られた

主は来られた 主は来られた

悪魔に囚われた人の牢を 打ち砕いて
捕虜を解放するとき 主は来られた

主は来られた 主は来られた

この世の闇路を お照らしになった
なんとも言えないほど美しい光の 主は来られた

主は来られた 主は来られた

萎んでいる心の 花を咲かせ
恵みの露を置く 主は来られた

主は来られた 主は来られた

平和の君である 御子を迎え
救いの主と 誉め讃えよ

誉め讃えよ 誉め讃えよ

4番の歌詞が素敵だなあと思います。比喩表現が美しいですね。
なお、日本語の歌詞を誰が書いたかは、はっきりしていないようです。ただ、1923(大正12)年にはあった模様なので、もう100年以上は経っていることになります。

両者の比較

「Joy to the World」と「もろびとこぞりて」とを比較すると、内容が大きく異なっていることがお分かりいただけるかと思います。

なお、母音に着目すると、けっこう両者の響きの性格が近いです。

  • joy to the world, the Lord is come
    オイ ウー ァ アー ァ オー イー ア
  • もろびとこぞりて
    オー オー イ オー オ オー イー エ

え?どこが?と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、声楽経験者だと「一致ではないが、たしかに近いものがある」という感覚になろうかと思います。

何と言えば分かりやすいだろう?アニメにしたときに同じような口の動き方になる、とでも言うと分かりやすいでしょうか。

「Joy to the World」がチューンネーム「Antioch」で定着した要因には、語呂の良さもあると思います。そして日本では「もろびとこぞりて 」が「Antioch」で定着しました。やはりこれも語呂の良さの影響があったはずです。

ちなみにですが、ディズニー映画などの吹き替え版では、オリジナル版の口の動きに合わせた訳にするようこだわっているそうです。これを初めて知ったときは衝撃を受けましたね。

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