秋の子(サトウハチロー、末広恭雄)すすきの中の子…

唱歌・童謡

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風邪もすっかり治り、また暑さもやわらいで、清々しく感じる日々です。これから秋が深まりますが、私は秋が大好きなので、今が一番心が安定している気がします。

さて、今回は童謡「秋の子」です。まずは私がひとりで合唱したものを、伊藤辰雄編曲版でお届けします

この歌は、私が小学6年生の頃に初めて知って以来のお気に入りです。秋の豊かさと切なさが入り混じった、絶妙な歌だなあと思います。

では、「秋の子」についてクローズアップしていきましょう。

山田耕筰の弟子の魚類学者が作曲

童謡「秋の子」の作曲者は、末広恭雄(すえひろやすお)という人です。末広さんは、かの有名な作曲家・山田耕筰のお弟子さんでした。

農学生時代、山田と会う

末広さんは音楽大学を出ておらず、東京帝国大学(現・東京大学)農学部水産学科の出身。学位論文は「魚類ノ消化系ト食性ニ関スル研究」でした。

末広さんは大学時代、山田耕筰が審査員長を務めていた作曲公募で連続入選し、それで山田に学ぶことになったのだそうです(末広恭雄著『魚のうた』より)。末広さん本人は自分自身を素人と呼んでいましたが、まごうことなき才能があったようです。

農学のキャリア

キャリアとしては、農林省水産研究所技官、東京大学農学部水産学科教授というように専門的な仕事をされていて、皇太子時代の昭和天皇に魚学を御進講したりもしていたそうです。東大退官後は京急油壺マリンパーク水族館館長を務めたり、シーラカンス学術調査隊の総指揮を務めたりと、音楽とは遠縁のキャリアでした。

歌詞に見る生物

「秋の子」は1954(昭和29)年に雑誌『アサヒグラフ』にて発表されました。翌年、同雑誌では「春の子」、「夏の子」、「冬の子」も発表され、春夏秋冬がそろいました。

4曲とも作詞者はサトウハチローですが、歌詞には下記生物が登場します。

  • 春の子:ひばり、もんしろ蝶、鮒、おたまじゃくし ※鮒は “鮒竿” として
  • 夏の子:かわはぎ、やどかり、ふぐ
  • 秋の子:はぜ、こおろぎ
  • 冬の子:たなご

こう見ると魚類は、鮒、からはぎ、ふぐ、はぜ、たなご。両生類のおたまじゃくし(蛙)や甲殻類のやどかりも含めると、水生生物がとりわけ多いですね。末広さんもきっと興味深く作曲したのではないでしょうか。

原曲と改訂版

先述した雑誌『アサヒグラフ』で発表されたときは、楽譜も掲載されました。この楽譜こそ、原曲と見て良いかと思います。国立国会図書館の現地にて閲覧が可能です。

一方、先述した『魚のうた』にも楽譜が掲載されていますが、ピアノ伴奏の音が原曲と少し異なっている箇所があります。こちらは作曲者本人による改訂版と見て良いかと思います。

たとえば、”さんしのごにんー” の “んー” で伸ばす小節の3拍目。原曲では下の音から As –  C – Ges – C となっていますが、改訂版では As – C – As – C です。

また、”つばきをのむこはー” の “はー” では、原曲では Es – F – G – D ですが、改訂版では Des – F – B – Des – F – B – Des となっており、重厚になったのみならず、ベースが変わったことで雰囲気がガラッと変わりました。実際にピアノで鳴らしてみると一聴瞭然ですが、私の主観では、前者は割とあっさりした響き、後者はセンチメンタルな響きです。

末広さんも思うことがあって音を変更したのかもしれませんが、作曲者本人により楽譜が改訂されることはよくあることですね。

テンポはどのくらいで歌うべきか

原曲も改訂版も、テンポの指定はありませんが、”さみしく 急がず” という指示があります。

そのため、具体的にどのくらいのテンポで歌えば良いのかは、もっぱら歌い手の主観によるところが大きくなります。

しかし、それを考えるのがとても難しい。前奏をじっくり豊かに弾くと、歌が入ったところで間延びしてしまいます。そうかと思って歌いやすいテンポを速めると、今度は前奏がせわしなく聞こえてしまいます。バランスが難しいのです。

そのせいか、好きな歌にもかかわらず、私はつい他者による編曲版を選んでしまいがちです。本記事冒頭でも、伊藤辰雄の編曲版を選んで歌っています。当該編曲版も、原曲等と同じくテンポ指定がありません。さらにことばの指示も何もありません。でも原曲等に比べると取り扱いやすかったなあという感想です。

一応誤解がないようにお伝えしますと、原曲等が悪いというわけではありません。素晴らしい作品だと思います。あくまで、編曲版に目移りしてしまった私の問題です。

思い出のプールと「秋の子」

最後に、自分語りです。

私にとって「秋の子」はとても懐かしく感じられ、かつ印象深い歌です。以下、話は私が小学6年生の時に遡ります。

夏には地域の水泳大会があり、6年生はほぼ強制参加でした。授業後の夕方や夏休みには毎日のようにプールで訓練したわけですが、プールは老朽化が進んでおり、秋になってからついに解体工事が始まりました。教室から工事を眺めていたところ、更衣室小屋が一瞬にして重機に倒され、ぐしゃぐしゃにされました。かなり衝撃的でした。

日によっては、休み時間に近くまで行って工事を見ることもありました。コンクリートも、重機に食われてギュウウウウウッとうめき声を上げていました。コンクリートらしからぬ悲痛な声でした。子供には大きく見えた凛々しき25mプールも、重機には敵わず、あっさりと散っていきました。

そんな頃、〈◯月の歌〉として毎日歌っていたのが「秋の子」でした。物哀しいメロディーと、取り壊されるプールに対する悲しみとがシンクロし、私の心に深く刻み込まれました。私にとっての「秋の子」は、内容こそ違えど、思い出のプールのテーマソングともいえます。

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