お待ちしておりました!
今回は久々に歌の作品のお話ではなく、発達障害のひとつである自閉スペクトラム症(以下ASD)を絡めたお話です。興味がない方には申し訳ありませんが、自身がASDだという方、家族や友人にASDがいる方、ASDの人を支援している方などにぜひ読んでいただけたら幸いです。
ASDの人は、感覚が鋭かったり、気持ちが不安定になりやすかったりします。そのため、定型発達の人(発達障害ではない人)に比べると、人一倍疲れやすい傾向にあるでしょう。
私もそうで、あらゆることでモヤモヤし、土日もゆっくり休まらないことがあります。一週間を振り返って、ひとりで盛大に反省会をしたり、ひとりで勝手にイライラをつのらせたりしています。
しかしそれは心に悪影響をおよぼしかねません。疲れやストレスの積み重ねは、こまめに解消していかないと取り除くことが難しくなり、下手をすれば うつ病などにもなってしまいます。
ですから、日頃手軽に疲れやストレスを取り除くことをする必要があります。そのひとつの方法が、ずばり〈歌うこと〉です。
もちろん、歌うことができないほど疲れている時は無理は禁物です。でも少しでもゆとりがあるなら、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。
歌うことが〈身体〉に与える効果3選
歌うことは身体や心に良い影響をもたらしますが、まずは身体に与える効果について3つ見ていきましょう。
ただ、ここでいう効果とは、ASDの特性を治すということや身体的な病気を治すということではないため、その点はひとつご了承ください。専門的な対処や治療は、別途専門医の指示に従ってください。
運動不足の解消につながる!
「たかが歌うだけでしょ」と思うかもしれませんが、あなどってはいけません。歌うということは、良い運動でもあるのです。
歌うときは声帯を鳴らして声を出しますが、音を長く伸ばしたり、呼吸を何度も行ったりもします。普段しゃべるときとは違うように声を出しますから、当然、筋肉の使い方も異なってきます。
細かくは割愛しますが、腹式呼吸を使ってしっかり歌うと、お腹のみならず、胸、背中などの筋肉も連動します。とくに正しい発声法を身につけた場合は、そのように筋肉の連動が効率良く行われます。
身体中の筋肉を使うので、血流が良くなります。冬でもポカポカになります。
ASDの人の中には、なかなか外に出歩けない方もいるかと思いますが、気が向いたらぜひ歌って、運動不足を解消してみてください!
姿勢の改善につながる!
立って歌う。そもそもこれ自体、横になりがちな人にとっては良い運動になります。立っているだけでも代謝が上がりますし、脚で身体を支えるため、立つための筋肉も鍛えられます。
そして、良い歌声を目指して歌うことを考えると、姿勢を悪くしては良い歌声は目指せません(←特訓を受けた人は別)。歌うときの基本は、身体をリラックスさせたまま、猫背にならないように、また反り腰にならないように、スッと立つことです。
さらに良い声を目指すなら、きちんと立ちながらも、身体の余分な緊張をとることも必要になります。肩の力を抜き、柳のようなしなやかな態勢を作るのです。
まあそこまでいかなくても、ASDの強みである探究心を生かして歌い続けることで、姿勢もどんどん改善されていくことが期待できます。
私は昔、姿勢が悪く、痩せ型にもかかわらず腹が前に出るような立ち姿でした。そこで気をつけようとまっすぐ立とうとしたら、今度は肩にハンガーが入っているかのような、強張った姿勢になってしまいました。歩き姿もロボットみたいになりました。しかし訓練を重ね、今ではだいぶ自然な姿勢になったと思います。
自然で美しい姿勢は、もちろんそれで評価が高くなるとまでは言えませんが、逆に姿勢が悪いと、自信なさそうに見えたり、弱そうに見えたりして、印象は悪くなってしまいます。
声がたくましくなる!
ASDの人には、もともと声が良い人もいますが、特に声が弱々しい人は、歌うことで声がたくましくなることが期待できます。
歌うときは、話すときよりも多くの息を使います。多くの息を使うと、その分身体の筋肉をしっかり使うことになります。また、良い歌の訓練を積むとなれば、腹式呼吸を使った安定した声を目指すことになります。
その結果、普段弱々しい声の人でも、意識的にたくましい声を作ることができるようになります。要は、芯の通った声。空気が漏れたような声ではなく、しっかり声帯が鳴った、前に飛ぶ声です。大きな声は必要ありません。音量の問題ではなく、質の問題です。
私自身は、普段、気を抜くとすぐ弱々しい声になります。それはASDの特性ゆえか、単なる性格ゆえかは分かりませんが、そういうときでも機械的にたくましい声を作ることはできます。それは発声を訓練し、良い声を出す方法を身体が覚えたからです。
特性次第では難しいこともあるかもしれませんが、試したことがないのでしたら、ぜひ良い声を目指して歌を極めてみてください!
歌うことが〈心〉に与える効果3選
上記では身体に与える効果についてお伝えしましたが、今度は心に与える効果についてです。
ただ、ここでいう効果についても、ASDの特性を治すということや精神的な病気を治すということではないため、ひとつご了承いただけたらと思います。専門的な対処や治療は、別途専門医の指示に従ってください。
とりあえず気持ちがスッキリする!
気持ちがふさがっているときは、歌う気すら起きないかもしれません。でも、少しでも余力があるなら、一度、好きな歌を一曲、本気で歌ってみても良いかと思います。
とにかく声に出してみることでストレスが軽減します!そう、内にあるものを外に出すというのは大切なことなんですよね(涙もそうです)。
また、歌うときのポイントは、とにかくその歌詞の世界に没頭し、音楽に身も心も委ねることです。普段色々なことでああだこうだ考えてしまうのは分かりますが、自分を騙すつもりでむりやり歌の世界に自分を突っ込んでみるよう努めましょう。
歌の世界に没頭して本気で歌うと、不思議なことに、さっきまであった心のモヤモヤが消えるかもしれません。過去のことを「ああでもないこうでもない」と引きずっていることをバカバカしく思える瞬間がやってくると思います。
ただ、見出しに “とりあえず” と書いたように、一時的な効果である場合もあります。歌い終わってしばらくすると元に戻ってしまう可能性はあります。それでも、ちょっと気持ちが軽くなったときに、何か良いことがひらめいて、人生が豊かな方向へと向かっていく可能性はあるでしょう。
気分の安定につながる!
腹式呼吸を使ってきちんと歌うことを継続すると、気分も安定しやすくなります。というのも、自律神経のはたらきが整うからです。
たとえば緊張しているとき、スーーーッと息を吐きましょうと言われた人も多いと思います。あれは、長く深い呼吸をすることで、リラックスを生む神経(自律神経のひとつである副交感神経)の働きを優位に立たせるためです。
ASDの人は、普段からストレスをため込みがち。ストレスは、緊張や戦闘をつかさどる神経(自律神経のひとつである交感神経)を優位にしてしまいます。もちろんその神経の働きが重要なシーンもありますが、常に優位になっていると、気分はピリピリし、また血管系の病気(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクも高まります。
そのため、深い呼吸で歌うことで、意識的に副交感神経のはたらきを高めてあげる必要があります。ぜひ、生活の中に歌う時間を設けてみましょう!
心が豊かに!
いろんな歌を歌うことで、いろんな歌詞、いろんな音楽に接することになります。さまざまな表現を学び、体現し、反すうすることになります。
ASDの人の中には、感情が一本調子になる人もいるし、人間界に渦まくあらゆる感情を理解できずに苦しむ人もいるでしょう。それどころか、感情の存在にすら気づけないこともあります。
しかし、この世で生きていくためには、他者の感情に無関心ではいられません。また、共感はできずとも、理解することが必要な場面が多々あります。
そこで、歌うことこそ、ソーシャルスキルトレーニング(SST)、つまり社会性を高めるトレーニングのひとつだと私は考えます。
歌うことは、直接的には社会性を高める効果は薄いかもしれませんが、歌うことをとおして学び得る、あらゆる感情の波、表現の幅などは、社会性を養うために必要な要素を育んでくれると私は思います。今回、これを “心を豊かにする” と私は表現しています。
歌うに限らず、音楽に触れることは、感性を磨きます。心を豊かにするうえで、音楽は必要不可欠とさえ思います。歌うことにどうしても抵抗があるのなら、楽器演奏や音楽鑑賞でも良いでしょう。
歌うことがもたらすさまざまなメリット
ほかにもあらゆるメリットがあります。状況にもより、叶うかどうかは人それぞれですが、たとえば次のものです。
- 色々歌えると自信になる
- 歌うことが一生の趣味や宝物になる
- 歌をとおして仲間をつくることもできる
- 舞台度胸がつく
- YouTubeで発信できる
- 歌から派生した趣味(音楽理論、文学、歴史、科学など)を見つけることもできる
- 自分自身をマネジメントできるようになる
このように色々あります。ひとつでも叶えられたら人生が豊かになるでしょう。素晴らしいことです!
歌ううえでの課題や注意点
上記では良い点ばかり述べてきましたが、課題や注意点についても把握しておいていただきたいと思います。
歌う場所を考える
言ってしまえば、歌はどこでも歌えます。極端な話をすれば、駅でもスーパーでも会社でも歌えてしまいます。
しかしマナーは大切です。「そんなの言われなくてもわかっている!」と思う方もいると思いますが、常にマナーは気にしておきたいものです。
歌う場所、歌う時間帯などをあらかじめ考えましょう。歌う場所を確保できない場合は、カラオケボックスや貸し練習室は無いか?とか、枕を口にあてがえば良いか?とかをまず考えてみることが大切です。あきらめるのはその後です。
また、突然歌を歌い出すと、家族が不快感を示す可能性もあります。もし可能なら、歌う場所や時間帯などについて、きちんと話し合いたいものですね。
そういえば、私がかつて教えていた生徒に、家庭にも置ける小さい防音室を買った方がいます。特に外出が困難な方や、貸し練習室などが苦手な方にはうってつけの方法ですよね。ただ、防音室は高い買い物になるので、買うにはそれなりに勇気が必要です。
先生に習うべきか
習える余裕があるなら、専門の先生に習うのが良いです。「鉄は熱いうちに打て」「思い立ったが吉日」ということわざがあるとおり、やりたいと思ったときこそ、習い始めるチャンスでもあります。
ただ、レッスンはお金と時間と労力がかかります。それに、いっときの情熱だと、習い始めて何日か経って冷めてしまうこともありえます。さらに先生との相性というのも考慮に入れる必要がありますね。
たしかに習いたいなら習うべきとは思いますが、ある程度冷静になって考える視点も欠かせません。人によって選ぶべき答えは違ってきますが、なるべくバランス良く考えて答えを出せると良いですよね。
なお、独学で歌を学ぶことは、ある程度なら不可能ではありません。しかし、もしきちんとした発声で健全に歌い続けたいのであれば、ひとり信頼できる先生を見つけておくと良いと思います。
※歌の先生が皆発達障害に詳しいとは限りません。必ず障害をカミングアウトしなければならないわけではありませんが、可能なら合理的配慮事項は伝えたほうが良いでしょう。
声を出すこと自体億劫なら
緘黙症により声を出せないとか、声を出すことが苦手でたまらない場合は、無理に歌う必要はないと思います。人には向き不向きがありますから、歌うことがいくら素晴らしいことであっても、人によっては毒にもなりえます。
自分の声が苦手なら
中には自分の声そのものが苦手な人もいると思いますが、そういう方も無理に歌う必要はありません。
また、自分の声を録音したりして聞いてみると、思った声と違ってショックを受けることもあります。私もそうでした。それは、自覚する自分の声と、自分の外に出ている自分の声とでは、音の伝導の仕方が違うためです。録音した声が本当の声に近いですが、そのときのショックの正体は、ずばり想像とのギャップによる驚きがほとんど。声が悪く感じても、決して悪いわけではなく、悪いと錯覚しているだけです。心配無用です!
そして、歌う経験を重ねて自信がついてくると、自分の声が好きになってくるかもしれませんよ。苦手だと思っても、小さな声で始めてみるとか、イヤーマフをつけながら歌ってみるとか、無理のない範囲で少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。
歌いすぎや悪い発声による発声障害も
歌うことが好きでも、歌いすぎや悪い発声には注意が必要です。
いくら良い発声だとしても、歌うと当然声帯に負担がかかります。声帯が擦れ合うからです。負担がかかりすぎると、当然炎症をきたします。炎症すると声がかれます。それを無視して歌い続けると、結節やポリープができ、一生の傷になってしまうこともあります。ときには手術も必要になるでしょう。悪い発声をしていたらなおさらです。
目安としては、歌うのは、まずは一日30分前後に抑えておくのが良いと思います。発声が悪い人はもっと短いほうが良いです。はじめから怒鳴るように歌う人なら、1分でも歌いすぎでしょう。
と、なんだか怖くなることを書いてしまいましたが、ここまで書くのは、私自身、かつて高い声で歌いすぎて、声帯に結節ができたからです。幸い、1ヶ月ほどほぼほぼ沈黙の生活を送ったため治りましたが、無視して歌い続けていたら、今頃は歌をやっていなかったかもしれません。
とはいえ、神経質になりすぎて歌を楽しめなくなるのもいけません。ASDの人には0か100の思考の人が多く、歌いまくるか歌わないかを選択しがちです。でもその二択は好ましくありません。正しい発声を求めつつ、場所や時間を決めて練習し、できるなら先生を見つけて、そのうえで気楽で楽しいシンギングライフを送っていきましょう!


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