お待ちしておりました!
今日はバレンタインデー!職場でチョコレートを頂きました。が、そんなことはどうでも良く、今日は “春は名のみの風の寒さや” で有名な「早春賦」のご紹介をしたいと思います。
まずは私が歌ったものを2つ掲載します。ひとつは原調(ヘ長調/F dur)、もうひとつは原調を半音下げた調(ホ長調/E dur)です。半音違うだけで雰囲気がガラッと変わります。
原調(ヘ長調/F dur)
原調を半音下げた調(ホ長調/E dur)
下げた調では、テンポもややゆったりとし、歌い方も少し大人びた感じになったかと思います。私個人的にはホ長調が自分の声に合っている気がします。原調だとやや突っ張った感じで、逆にホ長調からさらに下げると、発声的に暗くボヤけた感じになりそうです。
さて、今回は「早春賦」について掘り下げていきましょう!
歌詞と解釈、解説
「早春賦」はメロディーが覚えやすい反面、歌詞がやや難しく音域も広め。まずは歌詞について見ていきたいと思います。
歌詞
春は名のみの風の寒さや
谷の鶯 歌は思へど
時にあらずと声も立てず
時にあらずと声も立てず氷解け去り葦は角ぐむ
さては時ぞと思ふあやにく
今日もきのふも 雪の空
今日もきのふも 雪の空春と聞かねば知らでありしを
聞けば急かるる 胸の思を
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か
【解釈文(意訳:弥生歌月)】
春というのは名前だけであって、まだまだ寒い風が吹いてたまりませんね。谷の鶯はうたを歌いたくて仕方がないはずですけれども、「まだ春じゃない」とのことで歌いやしません。「まだ春じゃないから」と声すら立てません。
氷が解け去って葦の芽が出てきました。「ついに本当の春が来たか!?」と思いましたが、あいにくにも、今日も昨日も雪の空でした。今日も、昨日も、雪の空模様でありました。
もう春だという声を聞かないと知らずに済むものだが、聞いてしまうとワクワクが止まらなくなるこの胸の内を、どう処理したら良いのだろうかと思いたくなるこの頃。いったいどう処理すれば良いの!?と思う今日この頃ですねぇ…。
早春とはいつのこと?
歌詞をいざ解釈してみれば、早春の歌であることは一目瞭然です。
ちなみに、早春というのは正確にはいつのことでしょうか?
早春とは、春の初め頃だとか初春だとか浅春だと辞書等で説明されていますが、テレビ愛媛の『聞ける俳句』のサイトには、立春(2/4頃)から2月末あたりまでをいう季語と書いてありました。そのため、まさにバレンタインデーの今日は早春真っ只中といえます。
気象学では異なる?
気象学的には、春は3〜5月を指すんだそうです。だから早春というのは3月なのか?と思いきや、そもそも気象学において早春という概念があるのかすら私にはよく分かりません。
まあでも実際、地域によっては2月はまだまだ冬同然。さすがに春と呼ぶには早すぎるのかもしれません。しかし、春はすでに生まれています。日もだいぶ長くなり、明るさを感じるようになってきました。
参考:直訳
先ほどはだいぶ意訳してしまったので、参考がてら直訳も載せておきたいと思います。興味がない方はスルーしてくださいまし。
時にあらずと声も立てない
今日もきのうも雪の空
どうしろというこの頃だなあ
一点注意点があり、”聞かねば” の訳を誤りやすい。”もし聞かなければ” と訳したくなりますが、それだと古語では “聞かずば” となるはずです。”聞かねば” の場合は、仮定ではなく、〈聞かない〉という事実を受けて次の結果へと移る表現になります。”聞けば急かるる” の “聞けば” についても同じで、仮定なら “聞かば”となるところです。”ば” が動詞の未然形に接続するか已然形に接続するかの違いで、少し意味が異なってくるのです。高校の古典の学習でも問われやすいところですね。
あとちなみに、”氷解け去り” という言葉がありますよね。では、〈解ける〉と〈溶ける〉はどう違うでしょうか。実はニュアンスが異なります。〈溶ける〉 は熱などで固体が液体に変化することを指しますが、〈解ける〉は緊張状態から弛緩状態に変化することを指します。つまり歌詞の “解け去り” には、凍てついた寒さが和らいで春になるという意味が込められているといえそうです。かなり深い解釈をするならば、苦しみからの解放でもありましょう。
唱歌なのに難しい
「早春賦」は、1913(大正2)年の『新作唱歌』の第三集にて初めて世に出ました。そう、日本歌曲というよりは唱歌なのです。
唱歌は幼稚園や学校等の教材として使われることが多かったため、だいたいの歌は技術的に歌いやすくなっています。しかし、「早春賦」は音域が広めで、歌のプロであっても容易く歌えるものではありません。
1オクターブ半にもわたる音域
「早春賦」のメロディーの音域は、原調の場合、最低音がド(C)、最高音がそのドの1オクターブ上のドから数えてのファ(F)です。専門用語を使うと、完全11度(1オクターブと完全4度)の音域を持つといえます。
実際にピアノやピアノアプリ等をお持ちの方は、鳴らしながら声を出してみると、その音域の広さを実感できるかと思います。
しかも歌では歌詞がつきます。ただ声を出せれば良いというものではなく、言葉が聞き取れるようにしないといけないし、また日本語の発音と発声との干渉も生じるため一筋縄にはいきません。また、表現もつけるべきなので、なおのこと難度は上がります。
原調の最高音の是非
原調における最高音はファ(F)と述べました。この音は、歌の訓練を受けてない方や、地声が低い方にはなかなかに難しい音です。声楽専攻出身である私にとってもそう簡単とはいえません。
『幼年唱歌』の延長にある『新作唱歌』
先ほど名前を出した『新作唱歌』は、実はもう『幼年唱歌』という唱歌集の延長にある唱歌集です。
『幼年唱歌』は第一集と第二集を指し、第三集から第十集が『新作唱歌』です。名前は異なりますが、同じシリーズなのです。なんだか奇妙ですよね。
ただ、『新作唱歌』では、対象が尋常小学校、高等小学校、中学校、そして高等女学校まで引き上がりました。となると「早春賦」が難しいのも少しは納得です(それを加味しても難しいことに違いはありません)。
なお、同じシリーズなのに改題した理由は、もっと上級の子どもを対象とするためというのもありますが、ほかにも別に『幼年唱歌』という唱歌集があったからというのもあるといわれています。まあ、複合的な理由でしょうね。
少しでもうまく歌う方法
本当に原調で良いのか?
歌う前に考えるべきは、そもそも本当に原調で良いのでしょうか?ということです。
オペラアリアなどでは移調(キーを上下させること)は原則タブーですが、単発の歌曲や唱歌などでは移調はよく行われます。自分の持つ声域や声質に見合った調にすることで、自分の声や作品の良さを最大限に引き出すためです。また、演出効果として移調を行うこともあります。
ところが、中には、移調することはダサいと考える人もいます。移調はスキル不足の証拠だと言いたいのでしょう。たしかに、スキル不足のせいで歌いたい調で歌えないことはあります。
しかしその場合でも、自分の良さを最大限生かすための移調は許容すべきです。それも実力のうちです。そもそも移調するしないでダサいダサくないを論じること自体ナンセンスもいいところのナンセンスです。浅すぎる。
なお、移調の仕方については色々ありますが、ここでは割愛します。
移調時のポイント
移調時のポイントは、楽に声が出るとかも大切な視点ですが、最低音を出せるかの考慮は必要です。詳しくは述べませんが、低音は高音よりも先天的な身体的性質が影響します。低音が確実に出せることは必須。もし低音が空気みたいな音になるなら、それは下げすぎです(訓練である程度低い声を拡げることは可能ですけどね)。
最高音のために身も心も準備しておく
最高音を単発で出すときはうまくいっても、歌の中で最高音にスムーズに紡いでいくことは難しいです。
最高音に到達する前の音、さらにその前の音、そしてまたさらにその前の音……というように最高音から遡っていくと、やがては歌い出しに着地します。そう、その歌い出しから最高音がうまくいくかいかないかの勝負は決まっているのです。
さらには歌い出しの前、つまり前奏でも、すでに音楽は始まっています。だから歌い出し直前で歌うための準備をしていたら遅いのです。前奏が始まる前から、身も心も、最高音に向かうためのポジションを保つ必要があります。
具体的にはレッスンでしかお伝えできませんが、簡単にいうと、最高音を出すときの声の軌道があるとするなら、そのラインを最初からイメージしておくのです。
なだらかに音を紡ぎ、細く長い呼吸で
練習の段階では、声の軌道をしっかり意識し、そのラインがあまりにガタガタにならぬよう、強い意思を持って音を紡いでいきます。低い音だけズーンと奈落に落ちたり、高い音だけエイッ!と飛びついたりとかは、基本的には無しです。
はッるーはなー ッ の ッ みー の
ではなく、
はるーはなーのーみーの
というように、フレーズをなだらかにして歌うということです。
そのためには、強い意思のみならず、細く長い呼吸の上で歌うことも必要です。これは一朝一夕にはいかないので、日々の呼吸練習が大切です。
ただ、基本が身についたら、必ずしも上記のようには歌うとは限りません。芸術性という視点では、歌い方は多様であるべきだと私は思います。また、なだらかさを意識しすぎると日本語の良さも削がれてしまうことがあります。バランスがなかなか難しいです。
だけど、声楽は西洋音楽の一種であり、どうしても発声法は日本語と拮抗してしまいますから、練習の段階では発声法のみに重きを置くことも多いです。だから先ほど、”練習の段階では” と前置きをしたのです。
このあたりは一筋縄にはいかないため、プロの声楽家に習いながら練習するのが望ましいでしょう。


コメント